Exhibition Journal

展覧会制作における編集者の役割

編集者である私が展覧会に関わるようになったのは、ある友人のアドバイスがきっかけでした。

もともと大学で建築を学んだ後、出版社で建築雑誌の編集をしていたのですが、グラフィックデザインの力をつけたくなり、会社を辞めて、アムステルダムにあるグラフィックデザイン事務所で研修しました。オランダに住んでいた当時、目にする建築雑誌での表面的な日本人建築家のとりあげられ方に対して違和感を持ち、「より深い理解ができるような本をつくりたい」と友人に相談したところ、「だったら展覧会を企画して、カタログもつくればいいんじゃない?」と言われ、それまで展覧会の企画などしたことがなかったのですが、雑誌の特集号の企画編集みたいな感じでやれるかなと安易に始めました。幸運なことにいくつかの企画が実現し、その現場で働く人たちに教えを乞いながら、展覧会をつくるということを学びました。

初めて携わった展覧会『Thonik Exhibition “en”』(2009年、スパイラル)の打ち合わせの様子。

それから主に建築や美術の展覧会の仕事が徐々に増えていき、今は単なる編集の仕事よりも展覧会制作に関わることのほうが多くなりました。

実際の仕事内容は、どういうチーム体制なのかにもよりますが、展示候補のリサーチ、作家の制作補助、展覧会リリースの下書き執筆、写真・図版版権者への連絡、デザイナーに渡す資料の整理、ときにはフライヤーなどの小さなものは自分でデザインをしたりなど、いろいろやりますが、広義の編集をしているのだろうなと感じています。

その展示の意図や楽しさ、おもしろさをどのように誰に伝えるのか(決して分かりやすいということだけが正しいとは思いません)をチーム内で話してまとめていく作業が好きなのだと思います。窓学展では、展示の中のテキストの位置付けや鑑賞者への伝え方を念頭に、適切なテキスト量や内容を想定し、テキストを展示の中の一つの要素として成立させることをしています。窓学展は研究成果の発表なので、ともするとテキスト優位の内容になりがちです。また、今回は海外に拠点を置くジャパンハウスを巡回するので、テキスト内容が日本の文化への理解度に頼りすぎないようにかなり気をつけました。英訳についても、翻訳者と相談しながら、英語として意味が通ることだけでなく、日本以外で馴染みのない単語については補足を入れるなどしました。

私の仕事は私個人で作業を進めるというよりも、キュレーター、デザイナー、建築家、翻訳者といったプロフェッショナルの仕事をつなげて調整をしていくということだとすると編集(何らかの目的のために、素材やテキストを、構成、配置、調整などして、受け手に与える情報をまとめること)なのだなと改めて思います。展覧会制作に編集者がいなくても見た目にそれほど違いが出ない気がしますが、役割と役割の間でこぼれ落ちていることを拾って、全体のクオリティを少し上げることができるといいなと思っています。

もし私が少しだけ他の編集者と違っているとしたら、オランダのグラフィックデザイン事務所で働いた経験で得た視点かもしれません。社会の中でのデザインのあり方、クライアントとの関係性の築き方、事務所の中でのボスとスタッフの関係性、一つの事務所で働いただけなのでそれが全てのオランダの例とは言い難いですが、それでも日本にいると見えなかったものが見えてきて、違う意見を見聞きして視野を広げることに意識的になった気がします。

一人で本を作り上げたいという気持ちでグラフィックデザインの力をつけたかったはずなのですが、今はチームの一人として、一人だけでは到底実現できない景色を見ることができることがとても楽しいです。

 

展示アシスタント 柴田直美

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柴田直美 編集者

1975年名古屋市生まれ。武蔵野美術大学建築学科卒業後、1999~2006年、建築雑誌「エーアンドユー」編集部。2006~2007年、オランダにてグラフィックデデザイン事務所thonik勤務(文化庁新進芸術家海外研修制度)。以降、編集デザイン・キュレーションを中心に国内外で活動。2010〜2015年、せんだいスクール・オブ・デザイン(東北大学・ 仙台市協働事業)広報担当。あいちトリエンナーレ2013アシスタントキュレーター。2015 年、パリ国際芸術会館(Cité internationale des arts)にて建築関連展覧会施設について滞在研究。2017年、YKK AP「窓学」10 周年記念「窓学展―窓から見える世界―」展示コーディネーター。
www.naomishibata.com