東京スタデオへのインタビュー
2017年に青山スパイラルで開催された「窓学10周年記念「窓学展 ―窓から見える世界―」やロンドン、ロサンゼルス、サンパウロのJAPAN HOUSEを巡回する「Windowology: New Architectural Views from Japan」で展示制作を担当している東京スタデオ。統括ディレクターの山内裕太さんに話を聞いた。
–窓学10周年記念「窓学展 ―窓から見える世界―」(2017)から参画している東京スタデオはどんな特徴のあるチームでしょうか。
私たち東京スタデオは展覧会の空間・会場づくりを専門にした会社です。会場デザインから設計・会場施工、作品展示補助など展覧会に関わる仕事を一貫して行います。展覧会を専門にした会社ならではの長年の経験を活かした提案、対応ができるのが特徴です。
–本展示における山内さんの役割を教えてください。
今回も2017年の窓学展につづき、会場構成・什器設計をしている建築家の西澤徹夫さんにお声がけいただき参加しています。設計図を元に技術的な問題がないかなど検討しつつ、予算管理、製作スケジュールの調整を同時に進めていき、実際の製作、納品までトータルに管理するのが私の役割になります。
–ジャパンハウス巡回企画展における什器の具体的な制作プロセスを教えてください。
まずは設計図をもとに技術的な懸念点や問題がないか打合せを重ねつつ、実際の製作の前にテストが必要なものは試作品を作ります。今回もいくつか1/1スケールで試作品を製作して強度等を確かめる作業をしました。細かな設計修正等を経て仕様が固まって、実際の製作へと進みます。オイル塗装や什器へのモニター機器組込みなど、仕上げ作業は社内のスタッフとともに自分も手を動かしながら仕上がりをチェックしつつ完成へと進んでいきます。
–本展示では、起こし絵図を拡大し、会場に1/1のスケールで擁翠亭を再現していますが、実現までにどういったプロセスを踏んだのでしょうか。
最初にこの計画をお聞きした時に、これが今回の一番の難題になるだろうと直感しました(笑)。起こし絵図は紙を折り曲げたものなので、これを1/1スケールに拡大しても使用する素材は2mm程度の厚みにおさえなければなりませんでした。高いところでは2mを超える構造を、紙のような質感で折り曲げることのできる2mm程度の素材で作る…
まずはじめに、西澤事務所側から木材パルプやコットンパルプを原料にしたファイバー素材のボードを提案されまして、一度試作品を作ることになりました。この素材はプラスチックのような硬さで穴あけ加工や曲げ加工もでき、表面は紙のような質感なので、今回にピッタリの素材だったのですが、試作してみて温湿度の変化で反りが出やすいという問題が発覚しました。この展示は長期間に渡る海外巡回展でしたので、これは致命的な問題ですぐに使用できないと判断しました。
次にこちらからアルミ複合板という発泡樹脂を薄いアルミ板で挟んだ素材に和紙を貼り込んだものを提案しました。アルミ複合板は普段はグラフィックパネルや看板などのベース板として使用する素材で、反りにくいことは分かっていましたが、曲げ加工をした部分の強度を保てるのかが不安でした。試作品を作ってみて、曲げたアルミ複合板に和紙を貼ることで強度を補うことができると分かり、長期巡回にも耐えられるだろうと判断しこの仕様で決定しました。素材が決まってからも構造としてもつかどうかテストしながら慎重に製作していきました。テストで上手くいくたびにホッとしたのをよく覚えています。
–話は変わりますが、山内さんの「窓」に関する印象的なエピソードや覚えていることがあれば教えてください。
私の仕事は現場が始まれば美術館の展示室がメインの仕事場になります。美術館の展示室は作品保護のために外光を遮断する必要があるので、基本的には窓のない空間なのですが、東京国立近代美術館で開催された「窓展」の仕事は窓に溢れた仕事場でしたね。絵画、写真、映像、パソコンのウインドウまで、こんなに「窓」だらけの展示室はなかなか見ることができないのでは!と思いながら仕事をしていました。(笑)
東京都庭園美術館や原美術館(残念ながら先日閉館してしまいましたが…)など、元々邸宅だった場所を展示室として使用している、窓が印象的な美術館もあります。もちろん展示作品によっては遮光されてしまうこともありますが、自然光のはいる展示室もとても素敵です。